大津地方裁判所 昭和51年(わ)91号 判決 1980年6月09日
本店所在地
滋賀県蒲生郡竜王町山之上三、三三三番地
法人の名称
山之上製茶有限会社
代表者の住居
滋賀県蒲生郡竜王町山之上三、三三三番地
代表者の氏名
谷口寛
本籍
滋賀県蒲生郡竜王町山之上三、三三三番地
住居右同所
職業会社役員
谷口寛
昭和八年九月一六日生
右山之上製茶有限会社及び谷口寛に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官松本弘道出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人谷口寛を懲役八月に、被告会社山之上製茶有限会社を罰金一、〇〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人谷口寛に対しこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告会社及び被告人の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社山之上製茶有限会社(以下単に被告会社と称する)は、滋賀県蒲生郡竜王町山之上三、三三三番地に本店を置き、漬物の製造、販売及び製茶等を目的とする資本金二五〇万円の有限会社であり、被告人谷口寛(以下単に被告人と称する)は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
第一 昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度(以下単に四八年五月期と称し、あるいは48/5期と略記する)における所得金額が五九、一〇九、一六〇円で、これに対する法人税額が二〇、七一〇、四二七円であるにもかかわらず、架空仕入れを計上し、あるいは棚卸を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和四八年七月三一日近江八幡市桜宮町二四三番地所在の近江八幡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三、六八二、六八三円で、これに対する法人税額が七、六九一、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額一三、〇一九、四二七円を免れ
第二 昭和四八年六月一日から同四九年五月三一日までの事業年度(以下単に四九年五月期と称し、あるいは49/5期と略記する)における所得金額が六七、二三四、一三六円で、これに対する法人税額が二五、三四〇、四七二円であるにもかかわらず、前同様の不正行為により所得を秘匿したうえ、昭和四九年七月二七日前記近江八幡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二六、三六六、一〇五円で、これに対する法人税額が八、九九三、二〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額一六、三四七、二七二円を免れ
第三 昭和四九年六月一日から同五〇年五月三一日までの事業年度(以下単に五〇年五月期と称し、あるいは50/5期と略記する)における所得金額が一一六、三二四、六九六円で、これに対する法人税額が四四、二一八、〇三八円であるにもかかわらず、前同様の不正行為により所得を秘匿したうえ、昭和五〇年七月三一日、前記近江八幡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四七、九七五、四〇六円で、これに対する法人税額が一六、八七八、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額二七、三三九、六三八円を免れ
たものである。
(証拠)
判示冒頭全般について
一、第一回公判調書中被告人の供述記載
一、被告人の当公判廷における供述
判事冒頭の事実について
一、法務事務官作成の登記簿謄本
一、被告人作成の定款の謄本
判示第一ないし第三の各事実のうち、判示の如き各確定申告書が提出された点について
一、近江八幡税務署長作成の法人税確定申告書謄本三通
判示第一ないし第三の各事実のうち、実際所得金額、税額及び不正行為の内容について
各年度とも、実際所得金額は、申告所得金額に秘匿した所得金額を加算することによって認定したが、右秘匿した所得金額や不正行為の内容についての認定証拠は、それぞれの項目別に、右金額等と対照して掲げた方が判りやすいと思われるから、別表1ないし3の各期「秘匿所得金額の計算」或いは別表4ないし9の明細書等の「証拠」欄に掲記した。
なお、ほ脱税額は別表10によって計算した。
(法令の適用)
被告人谷口寛の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に、被告会社の判示各所為はいずれも同法一六四条一項、一五九条一項に各該当するところ、被告会社については、以上は刑法四五条前段の併合罪であるので同法四八条二項を適用してその合算額の範囲内で罰金一、〇〇〇万円に処し、被告人谷口寛については、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるので同法四七条本文、一〇条を適用して最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重を施した刑期の範囲内で懲役八月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用して被告会社及び被告人の連帯負担とする。
(弁護人等の主張について)
弁護人の主張の主なものに対して、当裁判所の見解を弁論要旨の順序にしたがって説示するとともに、関連して検察官の主張の若干についても判断を示すことにするが、主体を特に断ってなければ弁護人の主張の意味である。
一、釣池の売上高について
推計方法として、弁護人の主張するところは、公表売上高の二倍を実際売上高と推定すべきである旨の検察官の主張よりも説得性があるが、公表売上高と実際売上高の月別対比において、四七年三月分の実際売上の記録(符号七七)は同月前半の記載が欠けており(符号63の公表帳簿同月分と対比)、かつ集計の誤謬もあるうえ、極めて短期間の対比であることから、他の期間を推計するのに必ずしも適当ではないと考えられるので、別表4の如く、公表及び実際の売上記録が併存する全期間を通じて双方を対比したうえ、公表売上高に対する実際売上高の比率を算出し、これを用いることにより公表売上高のみが判明している各月につきその実際売上高の推計を試みたものである。
二、50/5期の売上(売掛金)除外について
前掲関係各証拠に証人谷村辰夫の当公判廷における供述(第一六回公判におけるもの。以下谷村証言と示す)を総合すると、被告会社においては、50/5期における所得申告にあたり、所得金額の調整すなわち利益の秘匿の一手段として、総勘定元帳の「売上」「売掛金」各勘定金額からそれぞれ四、九五〇万円を削減したのであるが、その具体的な方法として、平常の経理では同社は売上の都度納品伝票などで補助簿(売掛帳)のみ記帳するものの、その際売上及び売掛金に関する振替伝票は切らず、毎月末に右売掛帳各口座の売上金額欄を集計したうえ、月計により売上の振替伝票を切って総勘定元帳に移記する方式を採っているところ、五〇年五月分については、決算にあたって当初作成していた振替伝票を破棄して新たに右四、九五〇万円を削減した月計に書き替え、また既に正当額により記入されていた総勘定元帳の該当欄を直接刃物で削るなどして右金額を減じたものに改ざんしているが、補助簿の方は一切さわっておらず、又削減金額の得意先別内訳なども全く準備されていないことが認められる。
ところで弁護人は谷村証言を援用して、右谷村が本件捜査にあたって検事より見せられた得意先別売上高一覧表の数字が売掛帳該当口座のそれよりも多額なものがあった旨指摘してその分だけ売上高を減額すべきであると主張するのである。しかしながら、同証言を仔細に検討すると、右得意先別売上高一覧表なるものは結局売掛帳の各口座を集計移記したものと考えざるを得ないのであるが、弁護人主張の如く、秋山商店口座六、〇〇〇円、大井源四郎口座九、二四五円、八百伊口座二、〇〇〇円、或いは全部含めて一二〇~一三〇万円もの食い違いがあり、よって右一覧表に誤りがあるとしても、右一覧表は総勘定元帳の数字とは何の関連もないわけであるから、前記の四、九五〇万円削減前の売上勘定の金額が過大であることの根拠にならない。したがって、右各主張は理由がないが、吉岡屋と吉岡商事の重複記帳三一五、六〇〇円に関する主張については、売掛帳(符号38)の該当各口座を検討するに、確かに主張の如き重複記帳が認められ、売上月計に関する添付明細の存しない現在においては、その月計に右重複計上が犯されているかどうか判断する資料がないが、誤って計上する可能性は確かに存するとして売上高から控除するのが相当であると思われる。
なお、右と関連して、50/5期末の売掛金合計につき、売掛帳を拾って集計したものと、総勘定元帳の売掛金勘定残高とが一致しないケースが考えられるが(その場合、いずれの金額が多いのかということも明らかでない)本件の如きやや粗雑な帳簿組織の下では、過去何年度かの不突合が累積して50/5期に持ち越されている、或いは売掛帳の記帳自体に誤りがあるなどの原因もあり得べきことで、右の点から50/5期の総勘定元帳の売上或いは売掛金各勘定に所論の如き誤りがあるとは考れられない。
三、48/5期の期首棚卸高について
検察官が主張するところの、或る期の期末棚卸高又は期首期末平均棚卸高のその期の売上高に対する比率、すなわち棚卸回転率をもって、売上高が判明している他の期の棚卸高を推計する方法はそれなりに合理性をもち、運用に留意すれば比較的妥当な結論を得ることができよう。これに反し、「売上の一ケ月分以上の在庫」を保有している旨の、被告会社関係者の経験にもとづく、やや大雑把な証言を根拠に、48/5期の年間売上高を一二分して同期首棚卸高を推計するのが相当である旨の弁護人の主張は、他の期の関係数値分析の結果と対比すれば必ずしも根拠を欠くものとはいえないが、右証言自体の検討において、通常一ケ月分の在庫といえば、一ケ月の販売量を仕入値(原価)で評価したものを意味すると解せられるから、売上高よりも大分低くなる理であり、又一ケ月の売上高と同一金額の在庫高を意味するとしても過去の実績にかんがみその分量を推定するのが自然であり、実際の業務にたずさわる者の経験にもとづく証言として弁護人主張の趣旨に解することにはかなりの抵抗を感じるものである。
しかし検察官の右の推計計算において、48/5期に適用すべきものとして棚卸回転率一一・一二を求めたところまでは理解できるとしても、同期末における棚卸高が同期売上高との対比において大きなものになるからとて(回転率としては逆に小さくなり、八・七回転強に過ぎない)、その分だけ期首の棚卸高を少なく推計しなければならないとの論理はまことに説得性がないと思われる(すなわち、期首期末平均棚卸高による回転率一一・一二を維持しようとすれば、期首棚卸回転率が一五・七というやや異常な数値にのぼることを容認しなければならないのである)。
(註) 885,165÷101,441=8.7強
(48/5期売上高)(同期末在庫)
885,165÷56,349=15.7強
(48/5期売上高)(検察官主張同期首在庫)
以上の諸点を考慮し、当裁判所としては、別表5の如く、48/5期の期末棚卸高(同時に49/5期における期首棚卸高となる)とその時点をはさむ48/5期及び49/5期の二期平均売上高との比率(これも棚卸回転率の一種である)を算定し、これで47/5期及び48/5期の二期平均売上高を除し、47/5期末、すなわち48/5期首における棚卸高を推計したものである。ちなみに、その推計高七二、三五八、九九四円は弁護人の主張する七三、七六三、八〇四円と大差ない数値ではある。
四、不良在庫について
「不良在庫として棚卸高から除外する場合には、各期において、当該資産の評価換をして損金経理がされていなければならない」との検察官の主張は、通常の場合法人税法三三条二項、同法施行令六八条、基本通達九-一-五の趣旨に徴し、当然のことではあるが、例えば腐敗して全く食用に供せられないほど被告会社の棚卸資産そのものに効用の滅失を来すような物質的な欠陥のあることが査察官の調査などで判明した場合には、滅失に準ずる場合として会社計算にかかわらず損金として認容する余地もあると思われる(検察官が50/5期における不良在庫損失二、四三〇万円余りを認容したことはその意味で是認できよう)。また或る不良在庫が公表棚卸からその全部或いは一部が削られている如き場合は、確定した決算においてその商品全部或いは一部分をゼロ評価とすることにより、評価損失を計上したとみて(法人税法二条二六号)、その計算を認めることも、前記法令や通達の趣旨に反するとはいえない(勿論仕入金額で評価したうえ、評価損失を明示して控除するのが望ましいには違いないが、直接棚卸資産の評価において評価損失分を控除しても、損金経理といえないことはない)。右の立場に立ち、関係者の証言や被告人の供述をもとに商品の性質や保存状態を検討し、かつ各期の公表棚卸表における評価態度などをも参照したうえ、弁護人の48/5期、49/5期における不良在庫の主張の当否を検討した結果は別表6のとおりである。
五、交際費の損金不算入額について
交際費の損金算入限度額の計算により生ずる増差税額についてはほ脱の故意を欠く旨の主張については、被告人の大蔵事務官に対する昭和五一年一月一四日付質問調書中「問三、では何故接待交際費を公表帳簿に広告宣伝費等の科目で計上したのですか。答、近年会社の営業規模が大きくなるとともに、交際費も多額になりましたし、四六年五月期に多額の限度超過額が出ましたので、それ以降はできるだけ接待費とせず他の科目で支出するようにしたためです」との記載のあること、検察官が、他の科目(広告宣伝費、慶弔費、諸会費)で処理されているが、実質は交際費であると主張するものは、その殆んどが一見して交際接待費であることが明らかなものであるというべく、見解の相違とは考えられないことなどの点に照らし、被告人についても、少なくとも概括的犯意の存することは明白である。
次に、弁護人が交際費であることを否定する個々の支出について検討した結果は、別表7のとおりである。
ところで、交際費の定義は租税特別措置法六二条四項に定めるところであるが、所論の本社新築完成記念謝恩セールの韓国旅行費用及び電化製品などの景品代に関連して「交際接待費」と「広告宣伝費」の区別を考えるに、不特定多数の者に対する宣伝的効果を意図するものは広告宣伝費の性質を有するものと解すべきであろうことは異論ない。ちなみに国税庁の租税特別措置法六二条関係通達(以下単に通達と示す)は、細かく、一般消費者を対象とした景品、招待付販売の数例を挙げてこの場合は交際費とはしないとして「不特定多数の者」の具体的適用例を示すとともに、消極的な面から交際費の限界的意義を示している(通達(一)-八)。
次いで売上げ割戻しとの関係では、得意先に対し売上高等に比例し、或いは売上高の一定額ごとに金銭で支出する売上げ割戻しの費用は交際費に該当しないとする(通達(一)-三。次の通達(一)-四で、得意先にとって「事業用資産」にあたる物品の交付の場合も同様とする)とともに、法人が得意先に対し、事業用資産以外の物品を交付する場合又は得意先を旅行観劇等に招待する場合にはその物品の交付又は旅行観劇等の招待の基準がたとえ売上げ割戻しの算定基準と同一であっても、その物品の交付のために要する費用又は旅行観劇等に招待するために要する費用は交際費に該当するものとする(通達(一)-四)。おもうに、右の場合、金銭や棚卸資産等の事業用資産で割戻しがなされた場合は、得意先である企業自体に対して支出されたわけであるから、その分は当該事業者の収益に計上されるのに反し、その他の物品が交付されたり、旅行観劇に招待された場合には収益に計上される余地のないまま経営者個人の消費に供せられるから、以上の区別は合理的であると思われる。
かように被告会社の如き製造業者にあっては、右景品付招待付販売が主として卸売業者、小売業者などの得意先を対象としてなされたものか、はたまた一般消費者を対象としてなされたものかによって比較的容易に区別できるように示されている。右通達はいずれも、会計理論と税法目的に照らし同法六二条の定義を敷衍したものであって、もとより正当である。殊に本件は、従来実施したことのある記念セールは、取引高に応じて代金の割戻しをしていたが、今回はこれに代え、三か月間の売出期間に一五〇万円以上の商品(漬物)を購入した者には韓国旅行招待に、同様一〇万円以上の購入者にはその額に応じ各種の電化製品の贈呈に切り替えたものと認められ(第一八回公判における被告人の供述)、その性格は一層明瞭であり、前記通達(一)-四の射程範囲そのものである。弁護人は、本件はポスターやチラシを多方面に配布し、不特定多数の者に呼びかけて行う場合であるから右通達の適用するところでないと主張するが、右招待ないし贈呈基準にかんがみ決して一般消費者を対象としたものではなく、勿論取引先の拡張をも企図しているのであろうが、主として従前得意先の取引量の維持増大を目標としていることは明らかであるから、前記結論を左右するものではない。なお、証拠によると、得意先関係七二名を韓国旅行に招待するにつき、被告会社従業員八、九名も参加し、通じて六、〇九八、五三〇円の費用が被告会社から支出されたと認められるのであるが、右旅行の性質上右従業員らはもっぱら得意先招待のため随行したとみうるのであるから、人数割により従業員分を按分計算し、厚生福利費などとして交際費から控除すべきものではないと考えられる。
六、青色申告取消益について
本件の如く、法人の代表者が、その法人の法人税を免れる目的で、売上の一部除外、架空仕入、棚卸除外などによりその帳簿書類に取引の一部を隠ぺい又は仮装記載するなどして、所得を過多に申告するほ脱行為は、青色申告承認の制度とは根本的に相容れないものであるから、或る事業年度の法人税額についてほ脱行為をする以上当該事業年度の確定申告にあたってはもはや青色申告の承認を受けたものとしての税法上の特典を享受する余地はないのであり、しかもほ脱行為の結果として後に青色申告の承認を取り消されるであろうことは行為時において当然認識できることなのである。従って、青色申告の承認を受けた法人の代表者が或る事業年度において法人税を免れるためほ脱行為をし、その後その事業年度に遡ってその承認を取り消された場合におけるその事業年度のほ脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税法七四条一項二号に規定する法人税額から申告にかかる法人税額を差し引いた額であるとするのが確定した判例の見解であり(昭和四九年九月二〇日第二小法廷判決、刑集二八巻六号)当裁判所も右見解を正当と考える。
ところで、弁護人は、確定申告にかかる法人税ほ脱の罪は偽りその他不正の行為により納付すべき税額を申告納付しないで納付の期限を経過したときに成立するものであり、しかして犯罪の成否及び犯罪の量(ほ脱税額)は、右時点における納付すべき税額と確定申告にかかる税額との差額によってきまるものであり、従って確定申告後右承認が取り消された結果価格変動準備金などの損金計上が否認され、これに応じて所得額が増加し、従って税額もまた増加したとしても、そのことは法人税のほ脱という犯罪の成否又はその分量を過去に遡って左右すべきものではなく、単なる徴税上の問題に過ぎないと主張する。しかし青色申告承認の取消処分なるものは厳格な要件審査の後にはじめて許される処分であって、通常その処分はその納期を経過した後に行われ、しかもその不正の申告をした年度まで遡ってその効果を生ずるものと法定されているものであって、前示見解のもとにおいて、享受するに由なき特典を行使して過少申告した点を含めてそのほ脱行為と青色申告承認の取消処分に基づく効果との間には明らかに刑法上の因果関係が認められるのであって、その犯罪の結果の大小(分量)は既遂に達した時点において確定していなくてはならないものではなく、裁判時を基準としてその行為と因果関係が認められる範囲で認定するものと解すべきであるから、本件のいわゆる青色申告取消益はほ脱税額の対象になると考えるべきである。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 金山丈一)
以下の諸表に用いた略語例
証拠物
すべて押番(昭和52年押14号)を省略し、符号と資料名を略記する(<2>(総勘=総勘定元帳)、<54>(領=領収証綴)の如く)。
証言と供述
1.<4>W西原=第4回公判調書中証人西原鷹の供述部分(なお第13回公判で更新手続を行っているので、同公判後は公判廷での供述とすべきであるが、回数を示した方が検索に便宜であるから同じ要領で記載した)
2.<18>A=被告人の当公判廷での供述(第18回公判)
書証
1.検(被告人又はA1/12)=被告人の検察官に対する51.1.12付供述調書(もっとも10月ないし12月の日付は昭和50年)
2.質(谷村辰夫)=谷村辰夫の大蔵事務官に対する質問てん末書
3.確又は供(谷村辰夫)=谷村辰夫作成の確認書又は供述書
4.48/5<申>=48年5月期の法人税確定申告書謄本
別表1
48/5期秘匿所得金額の計算 No.1
<省略>
No.2
<省略>
別表2
49/5期秘匿所得金額の計算 No.1
<省略>
No.2
<省略>
別表3
50/5期秘匿所得金額の計算 No.1
<省略>
No.2
<省略>
別表4
つり池収入の除外割合の算定
<省略>
別表5
売上と棚卸の相関関係と棚卸回転率
<省略>
別表6
不良在庫損失の帰属年度判定表
<省略>
別表7
交際費検討表(検察官が交際費と主張し、弁護人が争うものにつき)
<省略>
別表8
減価償却否認・認容額(建物)
<省略>
(註) 1.被告会社は普通及び特別償却限度一ばいの減価償却を計上しているので、特別償却を否認されると、その算出額はそのまま償却限度超過額となるわけである。
2.48/5期被告会社の木造漬物工場の(普通)償却額計算にあたって誤りがあり、83,333円の不足があるので特別償却として計上額中この分を認容した。
別表9
減価償却否認・認容額(機械装置)
<省略>
(註) 1.別表8の(註)1.参照(計算方法は上表算式による)
2.検察官の主張と若干の差があるが(※+287、※※-102)、僅少であるし、証拠の関係で簡単な上記計算式に従った。
別表10
税額算出表
<省略>
(註) <1><5><7>は各期<申>該当欄の数字を、<2>は別表1ないし3の秘匿所得合計額を移記した。